2021年7月某日
お誕生お祝いを菊乃井で。
ワタシの誕生日は4月だ。円山公園で満開の桜を見て、そしてお夕食をいただきたいな、とオットにリクエストした2021年春。
京都東山の「菊乃井本店」を予約してもらったのだけど、コロナ禍&骨折でキャンセルしたよ(涙)
骨折は治ったし、緊急事態宣言はマンボーに変わったので7月のこの日、リベンジです。打ち水が涼やかな菊乃井本店の玄関。(
菊乃井公式HP)
通していただいた蘭の間。ひと目拝見しただけで体感温度が下がる気がする夏の室礼。
竹ひごを使った建具の縦ラインと、お庭にスックと伸びる木賊(トクサ)がリンク。モダンでスタイリッシュだ。
お陰で、暑いお外からやって来たのに気分はイッキにクールダウン。こういったおもてなしに価値があると思って来店しています。
お軸は富本憲吉氏。(陶芸家の人間国宝だとwiki情報)雪山の絵なのだそうですよ。凡人にはそうは見えなかったりしますがw「暑い夏に見れば、少しは涼しゅうなりますやろか」という女将からのメッセージです。
敢えてぬるめ、でも濃いめに抽出された緑茶withぶぶあられを頂戴してひと息。
蔓延防止で20時閉店ですから、スタートを17時と早くして良かった。この庭が夜に向かって変わっていく様子と共にお食事を頂ける。
「祇園月の献立」と題したお料理がはじまります。ちな、ディナーの懐石コース価格は4段階。今回は45000円でお願いしました。
八寸。いきなりハートを射抜かれるワタクシ

こういう、遊び心がある演出にめっぽう弱いのだ。
『そみんしょうらいのしそんなり』茅の輪くぐりに模した演出。「お箸を輪の中にくぐらせてお召し上がりください」とお部屋担当女子さん。なるほど。箸を3回くぐらせて茅の輪をくぐったと見なす、とな。コロナも撃退やねw
「食べる際には邪魔なので外していただいて結構です」(担当女子さん)
「私共、ここに来る前に八坂神社でリアル茅の輪くぐって来ました~」「ほな、もう完璧ですね!」老舗
料亭と気構える必要なく、明朗な仲居女性である。「海老松風」はプチプチ芥子の実が楽しい食感。「どじょうの博多」は博多帯を模した直線形で美しい。「蛸の子」はシャミシャミ食感が美味しく、柚子味が効果的。
祇園祭期間だから鱧はどんな形で提供されるかしら?と思っていましたが、まずは押し寿司で。「サフラン生姜」という初めましての口直しが添えられています。寿司ガリと違って甘みが強く、口中でサフランの香りが暴発するという面白いガリ。
「利休麩、青瓜 雷干し胡瓜酢和え」しゃみしゃみしていたり、くにゃんとしていたり。食感が楽しい。
「ぐじ水玉胡瓜」が特に気に入りました。一口で終わってしまうのだけど。カツラ剥き胡瓜が包むのはぐじ。(甘鯛)芯の生姜の効果で口中が一気に涼やかになる逸品。
乾杯用に添えられた金の盃。「’京都市清酒の普及促進に冠する条例’というのがありまして、乾杯は京都の日本酒で、という条例がございます」(仲居嬢)なるほど。日本各地の酒蔵が、乾杯はビールという常識を変えようとしていますね。尚、八坂神社の2つの社紋が浮き出た金杯。特に仲居嬢から説明なかったけど。祇園祭がある7月だけしか使われない金杯かもしれないなあ。
この日いただいたアルコールは麒麟中瓶800円(税別)×2本と・・・
日本酒メニューからチョイス。場所柄、とんでもないお値段の銘柄もありますが、
料亭として常識的な価格設定かな。京都周山町の「初日の出」をボトルで。(5000円税別)追加で鳳麟を300ml。(2500円税別)
日本酒は、つどつど竹徳利(青竹)に入れ替えて提供してくれます。「まだ竹が青いうちに切ってきて、冷凍庫で夏まで保管しておきます。色鮮やかなままにするためです」(仲居嬢)
オット的には、時間を置くことで切りたて竹の青臭い匂いが酒に移ることがないのがイイ、らしい。
「雲丹豆腐」函館の雲丹。わさびジュレがかかっていて、トップの黒いアクセントは若芽ペースト。
「器はバナナの葉のイメージです。うちの大将はこのガラスのスプーンを食べずらい、と文句言わはりますが」(仲居嬢)大将とは村田吉弘氏ですね。口に当たるとひんやりするスプーン。ワタシはアリだと思いますよ。
思った以上にウニ。雲丹豆腐というより、豆腐の体をした雲丹の塊?フツー、ほんのり雲丹の香りがする葛豆腐といったモノだけど。大将は気前よく、相当量の雲丹を投下しているようです。出汁も旨っ。
向付は明石鯛と伊勢海老。豪快な演出。お造りが瓜に乗ってやってくるとは。
以下、仲居嬢。「この瓜は八坂神社に奉納するマクワ瓜です。実際に奉納する瓜はもっと大きいサイズですが。大将がこのサイズをお料理に欲しくて農家さんに特注しています」大将の目論見どおり、インパクト大です。
大ぶりに切られた伊勢海老はブリッブリの歯ごたえ。海老味噌醤油を付けると更にオイシイ。
湯引きした鯛は食感が強く、咀嚼しても歯に抵抗して来るよ。あしらいに黄韮の酢〆。
「向付」が、まさかの2品。つづいて、鱧落しです。祇園シーズンですから、関東ではあまり食べられない鱧を楽しみにして来ました!鱧落し(左)と焼き霜仕立てのジュレ掛けスタイル(右)の2パターン。2種の鱧を楽しめる、って大将のご配慮に感謝。
フツウの鱧落しは氷水でキュッと〆て食べますね。村田大将は「それだと皮がゼラチン状になって食べにくくもある」と。菊乃井では温かいままの提供です。なるほど!ワタシもオットも大将に同感。冷たい鱧にありがちな固さが無く、温度が高いおかげで鱧の味わいを感じ易くなっています。自家製梅のソース、山葵入りがいい仕事をします。
「蓋物」が涼し気な銀の漆器でやってきました。お献立には「夏越しの薬石」と書いてあります。なんだろ?
ん?煮物?といった印象ですが、牛タンの角煮でした。覆っているのはじゃが芋餡、つまり和風マッシュポテト。手前に青ずいき。
黒糖と八丁味噌でトロットロに煮込まれた牛タンです。う、うまい…。「中国山東省から日本に伝わった角煮。京都の職人が長崎で学びました。京都公家文化で四つ足は食べないと思われますが、実際は夏バテ対策で食べることも。’夏越しの薬石’と呼んでこっそりと食べていました」(仲居嬢)ヘビーな一品だけど、もう一度食べたいと今も思い出します。
ここでようやく後半戦でしょうか。部屋に焼き台と共にお兄さんが登場。鮎を焼いてくれます。
本日の鮎ちゃんたちは、コース開始当初に仲居嬢がお披露目してくれました。ぴちぴちっと元気に跳ねるお姿に、なんだか申し訳ない気分・・・
鮎はある程度焼かれており、ここでは最後の仕上げ焼きをしてくださっています。
ひとりに2尾の鮎。蓼酢にはオリーブオイルが入って、鮎の苦みを緩和するのだそう。小ぶりの鮎なので頭から食べやすい。
ガブリといけるサイズだから、苦みと脂がひと口で満喫できるんだわ。「びわ湖の鮎はもう少し大きくなりますが、大将がこのサイズに拘りまして」(仲居嬢)村田大将は食材に妥協しないのねえ。
もうひと品の焼き物。塩釜になった大きな鮑が登場。
この大きさになるのには5~6年かかるそうです。鮑を覆いつくす大量の鳴門わかめ。塩釜を使ってわかめと共に蒸し焼きにした鮑と雲丹をいただく料理。
わかめの山から鮑を発掘。「え~、こんなに・・・いいの?」って卑屈になるほどブ厚くスライスされたあわびが出てきたよ。むっちり食感のあわびを噛み締めます。うはうは~。塩釜効果でちょうどよい塩梅。
画像の色調が同化して雲丹の存在が不明瞭ですが、相当量の雲丹が入っています。加熱されたこってり雲丹が濃厚。そして、脇役のはずのわかめがウマいという事態。「わかめをお召し上がりになるのはほどほどにされて…。ついつい食べてしまって、後でお腹で膨れて大変なことになってしまうお客様もおられます^^;」(仲居嬢)
残すのがツラかったほど若芽がオイシイ(涙)ソースは2種。鮑の肝醤油と柑橘酢。2つあるので飽きないの。シンプルだけど記憶に残る焼物でした。
「中猪口」、トマトのスープ。キンキンに冷やされた黄金の蓋つき器。見た目で涼し気。
表面を覆っているのは汲み上げ湯葉。トッピングにじゅんさい、小細胡瓜、花穂紫蘇、浅葱。
クリームのような汲み上げ湯葉の下から、鮮やかな赤。三種のトマトをミックスして仕上げたスープ、と仲居嬢。フレッシュなトマト、酸味のあるトマト、オーブンで焼いて半量に凝縮したトマトの三種です。
オーブンで凝縮したというドライドトマトの旨味が濃厚。微かに玉ねぎみじん切りも入っていて、これは和のガスパチョともいえる品でした。
ここまででかなりお腹いっぱいです(汗)仲居嬢曰く「うちは料理の量が多いのです。お客様が『帰りにラーメンでも食べてこかいな』いう気分にならへんように、と(笑)大将は日本料理は量が少ない言われることが心外で、たっぷり出す方針なんですよ。昔はもっと多くて、最後まで辿り着けないお客様が続出の時期もありまして(笑)
美味しいものは残さず食べる主義のこにゃくう夫婦です。受けて立ちましょう、村田大将!
「強肴」で冬瓜蒸し。とろとろの餡仕立ての中身は、ふかひれ&すっぽん、だという。ひゃー。豪奢な蒸し物。
ここで、菊乃井の女将がご挨拶にご登場。「このサイズの冬瓜は大将が農家に頼んで作ってもらってます。」(女将)冬瓜ってラグビーボールほどのサイズがフツウだものね。「すっぽんにふかひれ。夏はスタミナある物を食べていただきたいです。どうぞ、ゆっくり食べておくれやす」(女将)
クーラーが効いて涼しい夏座敷で食べる、熱々の餡。すっぽんにふかひれですから、コラーゲン大量摂取です。食べていると、口がコラーゲンでペッタリとくっつく事態にウハウハです。どこまで削って食べていいのやら・・・冬瓜の皮ギリギリまで削っていただきましたっ
嗚呼、ご飯が登場したということは、ようやく終わりに近いということですね。ここまでよく戦いました、我ら。うなぎ白焼きごはんと新牛蒡すり流し汁。皮パリッ!な鰻の焼き方が見事。この食感だけでご飯イケました。
この漆器は、一節の竹でできているようだ。この太さの竹というのも「へー」だし、蓋に裏の蒔絵が雀であるのも「竹と雀」(取り合わせが良い物のたとえ)で遊び心。
新牛蒡汁が良い取り合わせでした。「菊乃井では1年通じてその季節のすり流しをお出ししています」(仲居嬢)熱々の牛蒡汁が胃に染みる。素揚げ牛蒡も潜んでいて、ああ旨い。アクセントは黒七味。
(画像は香の物:胡瓜漬けと水茄子。関東では水茄子が一般的には売られていないのでうれしい)
デザート2品まで辿り着きました。八ッ橋アイスと葛切り。八ッ橋アイスはニッキ(肉桂)のクラッシュが混ぜ込んである。シナモンじゃないんだな。より高価といわれるニッキの方なので、甘いアイスが時折スパイシーで刺激的。
手作り葛切りの黒蜜がけ。キンキンに冷えた青竹筒で。本葛って希少品なんです。そこに燕の巣まで入ってたよ。燕の巣が入る必然性はあまり感じないのだけど。
最後に、お献立に載っていない第3のお菓子が~。まだ出るの(ガクブル)「枝豆羹」枝豆の黄緑が鮮やか。クラッシュした蓮根が仕込まれていて、シャクシャク。甘さは密やかでほぼ枝豆の甘さです。
最後に抹茶を頂戴してお料理終了。新羅時代の器であるよ。(飲み終えた器の画像で失礼します)
全品残さず、おいしく完食です。女将に「まあ!よう食べてくれはりました」と半分呆れられw
向付と焼物が各々2品だったり、巨大な鮑を使っていたり、という内容なので超満腹になりましたが、45000円よりもお安いコースならここまで品数出ることなく誰でもフツーに食べられると思います。でも、お部屋に料理の方が来て焼いてくれるライブは、下の価格帯では無いのかも。
(これも新羅時代の香炉。ラクダ…じゃなくてヒツジなんだって)
大小併せて12の部屋がある菊乃井さん。コロナ以前は一晩に40名の来客だったそうです。それでも今宵は、(大広間は別として)各部屋に30名のお客様が。コロナでも菊乃井で食べたいお客様はやってくるのだな。「コロナ前は中国の方のお名前しかない夜もざらでした」(仲居嬢)
玄関を辞すと、姿が見えなくなるまでお見送りしてくれる女将と仲居嬢。「お客様には美味しいものを満足いくまで食べていただきたい」という村田吉弘大将の熱量が伝わるお料理たちでした。大将はワタシと同様、食いしん坊に違いない。
(帰路、高台寺のライトアップと七夕かざりを見に行ったよ)
暑い京都の夏を涼しく、または元気に乗り越える料理たちは、舌の記憶に残る物でした。
老舗なのに女将や仲居嬢の接客もフレンドリー。これはリピするお客様が多いのも、ミシュラン12年連続3つ星なのも納得でございました。ごちそうさま。
≪自分のための記録メモ≫夜懐石料理45000円×2、麒麟ビール800円×2、日本酒 鳳麟純米大吟醸300ml 2500円/初日の出 4合瓶 5000円、サービス料15% 14865円、税11396円 合計125360円
菊乃井 本店 (東山/懐石・会席料理)
★★★★☆4.01 ■大正元年創業。和食の真髄を世界へ発信する老舗料亭「菊乃井」で、一期一会のもてなしに出合う。 ■予算(夜):¥30,000~¥39,999
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