<2022年9月追記>ほぼ酒蔵だけがポツンと状態だった農口尚彦研究所。呑んだ後の交通手段に悩む場所でしたが、2022年7月に隣接してフレンチのオーベルジュができました。(オーベルジュ・オーフ公式HP)
2019年12月7日(土)
ムスメ、オットと北陸旅行中。オットが「前から気になっていた酒蔵の見学と試飲を予約したよ」と。
農口尚彦氏とは。日本酒好きには有名な、伝説の杜氏です。その農口さんを中心にした酒造りを2017年から開始したのがこの酒蔵、農口尚彦研究所です。
酒蔵見学と試飲は完全予約制。有料(5500円/税込)にも関わらず、ぜひ訪問したいという日本酒好きが、
石川県小松市の何もない郊外までやって来るのだそうです。
ほんとに、清々しいまでに何もない。豊かな里山に囲まれた場所。
予約時間まで少々待たせていただくロビーがステキなデザインでうっとり。お外の風景とギャップがあるように見えますが、ナチュラルという点でしっかりリンクしている建築物です。
農口尚彦研究所が造り上げたお酒たち。ラベルがスタイリッシュだよね。農口氏の「の」と猪口の底に描かれている蛇の目模様をイメージしたデザインです。
試飲の前に蔵見学です。我が家3名の他、グループ旅行の7名様。いっしょに見学コースを進みます。
5500円の料金の中にこの見学も含まれるわけですが、「酒蔵見学」というよりも「酒蔵が見えるギャラリーを拝見する」的コンセプト。蔵によってはぐっと内部にまで案内してくれる所もありますから、この仕込みタンクを眺めるだけの見学は物足りなかったな。
そうは言っても、酒蔵は食品製造の現場ですから「ガラス越しに見てね」の方針でも仕方ないですね。「今日は農口さんはいらっしゃるのですか?」の質問に。「作業しています。皆さんにご挨拶できるかどうかは今のところ不明ですが」(スタッフさん)
酒米を蒸した蒸気だろうか、曇ったガラス。見下ろすと、大柄な男性がツカツカと歩いているのがシルエット程度に見える。「をを!あれ、農口さんじゃないか?」「え、どこどこ?」7人グループの皆さんが色めき立つ様子に「農口氏のカリスマ性凄いな!」と驚愕するワタクシ。まるで芸能人がガラスの向こうを通過!的反応の皆さまですw
農口尚彦氏とは?イケメン杜氏なのか?またはアイドル杜氏?フツーの人はご存じない局所的有名人です。
はい、こちらが農口尚彦氏。昭和7年(1932年)12月生まれ。只今88歳。年齢で一括りに、おじいちゃんなどと言ってはいけない人なんです。高齢ですがバリバリ現役杜氏です。そして、酒造りの天才。
16歳から酒造りの仕事に入って70年以上。全国新酒鑑評会で27回も金賞を取り、現代の名工に選ばれる。酒造り集団「能登杜氏」の中でも特別な存在「能登四天王」のひとりです。そんな農口さんも定年退職を迎えて勤めていた蔵を辞し、フツーのリタイヤ生活を送っていました。でも「ぜひに!」と乞われて、農口さんの名を冠したこの酒蔵「農口尚彦研究所」の杜氏として現役復帰したのが2017年のこと。
見学終了後は試飲タイム。「杜庵」(とうあん)と命名されたカウンター空間に、予約人数分のお席が用意されていました。
おっしゃれ!冬の田園風景と杉林が屏風絵のよう。イッキに気持ちが異空間に連れていかれます。
席は決められているようです。オットの予約が早かったからでしょう。お外が真正面になる席に案内されてラッキーです。
フツーの試飲とは趣向が異なります。酒器の違い、提供温度の違いを飲み比べて楽しみつつ、石川県ならではの発酵食品をつまみとしてお酒に合わせます。蔵限定酒の提供もアリ。
「杜庵」と名付けたのは、ここは茶の湯の世界観でおもてなしするから。カウンターのサイズも茶室と同じ四畳半。使っている酒器も、石川県伝統工芸の一級品や人間国宝の作品たちです。
カウンター内に揺らめく水槽。酒の仕込みにも使う白山連峰の伏流水が涌出するようにこしらえてあります。茶室をなぞるごとく、カウンターには炉が切られていて茶釜が架けられており。
おつまみが4種。左が「ふぐの粕漬け」そして「烏賊の粕漬け」
「クリームチーズにドライドいちじく」「鯖のへしこの粕漬け」使っている酒粕はもちろんこの蔵の物。
最初にワイングラスに注がれた「蔵限定酒 純米吟醸無濾過生酒2017BY」2年ほど瓶で寝かせて、まろやかにした蔵限定酒。お高い酒なのにたっぷり注いでくれたなあ。ふぐの粕漬けが合う。
2種目。地元産五百万石純米無濾過生原酒。「五百万石は軽やかで淡麗辛口のイメージですが、うちではしっかり味を出しています」(スタッフさん)次いで、同じ純米酒を日向燗32℃で。烏賊の粕漬けをおススメされました。
3種目。同じ五百万石の山廃。2種目の純米酒とスペックは同じなのに製法が違うとまったく別。
酸が引き立ち、シャープな印象。(この切子グラス、ステキ過ぎ。欲しい

)
そして、その山廃を42℃のぬる燗で。鯖へしこの粕漬け、いただきまーす。
只今呑んだ五百万石のお米を炊飯したお茶碗が登場。食米のような粘りや柔らかさはなくパラパラな点に、酒米たる個性が分かります。しかし、噛み締めると甘みはしっかり。五百万石を炊いて食べる経験はそうはできない。
造り違いの酒、温度ちがいの酒を呑みくらべ、地元産のおつまみとの相性を確認してみる。口々に勝手な感想を言い合うのも楽しい空間です。
4種目が登場。「昨日搾ったばかりの本醸造無濾過生原酒です」(スタッフさん)三日月が底に潜んでいる漆塗りの盃にヤラレた。欲しいゾ。
ここで、桐の箱に納まった菓子が登場。最初はそのまま味わって。次に、日本酒に浸して食べてみてください、と大胆なことをおっしゃる。
そうだ。ここは茶の湯の世界観で酒を楽しむのがコンセプトだった。最後に菓子は茶事ならぬ酒事としては当然な流れ、ということですね。小松市内の老舗、
行松旭松堂が杜庵のために作ったお菓子。
ノンアルコールメニューもあります。少しお安く3300円(税込)
最初は丁寧に絞ったレモネード。(なんだと思う)我が家はムスメが「ここからはワタシが運転したげる」と譲ってくれました。ありがとう、ムスメ!
甘酒と干菓子。コレ、ぜったい美味いヤツだ。
ムスメにサーブされた品を横目でガン見しただけだけど、上質な和三盆の落雁と柚子ピールだろうか。
これがとっても美味しそうだった。作りたて、挟みたての甘酒アイスもなか。酒造りの天才農口さんは、実は下戸なのだ。だからなのか、ノンアルコールのゲストへのメニューも丁寧です。
まーまーなペースで次々と注がれ、なんやかやひとり2合は頂戴したかしら。アルコールに耐性が無い方は慎重に。
宴もたけなわとなった頃、レジェンド登場。どよめく一同。
お仕事の進捗によってはお会いできないだろうと思っていましたから、突然の神の降臨に皆さんうれしそうです。「能登四天王」とか「伝説の酒の神」とか異名を持つ方ですから、キビシめの職人気質の方かしら?と思っていました。ぜんっぜん違う!
ワタクシのド素人な質問にも丁寧に答えてくださる。失礼ながらお歳をまったく感じさせないソフトな話術。この方にとっては「金賞受賞云々」などは関心がないのだな。ただただ美味しい日本酒を造りたいだけでここにいます、という情熱が溢れ出ています。この人と触れ合ったら、誰もが農口酒のファンになってしまうでしょう。
「大吟醸を造る際は夜中は2時間おきに室(むろ)に行きますよ。自分で確かめないとね」パワフルな87歳(当時)を眩しく見上げるワタクシ。「握手してくださいっ」触れたその手は真綿の様に柔らかくほわっほわ。且つ、指から掌からエナジーがほとばしり出ていたことが今でも忘れられません。
2021年 農口尚彦研究所 - 行く前に!見どころをチェック - トリップアドバイザー
農口尚彦研究所(小松市)に行くならトリップアドバイザーで口コミ(11件)、写真(24枚)、地図をチェック!農口尚彦研究所は小松市で11位(62件中)の観光名所です。